リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

「もちろんただでとは言いませんわ。お代はきちんとお支払いいたします」

『お代』の言葉に少年が足を止めて少しだけ振り返る。

「……いくら」

 口の端が持ち上がらないように気をつけながら、はっきりと言った。

「百リュカスです」
「ひゃっ……やる!」

 リリィはにっこりと微笑んだ。

「通りすがりのあなた様も。どうもありがとうございました。本当に助かりましたわ」

 ついいつものようにカーテシーをしようと右足を後ろに引いた途端、ずきんと鋭い痛みが走った。しかめそうになった顔に、にこりと笑みを貼りつける。

「では、わたくしたちはこれで」

 軽く会釈をしてそっと足を踏みだそうとした瞬間。

「無謀の次はやせ我慢か」
「きゃっ」

 ふわりと体を持ち上げられて声が飛び出す。

「さすが稀代の悪女様だな」
「なっ、どうしてそれを……というか、下ろしてくださいませ!」

 顔を上げると、思わぬほど近くに彼の顔があった。心臓がどきっと跳ねた。
 シャープな輪郭にすっと高い鼻梁と薄い唇。前髪の隙間からのぞく瞳は、深くて美しい緑色をしている。

「さっさと行くぞ」

 ついうっかり見惚れているうちに男性は歩きだし、リリィの荷物を持った少年が慌ててついてきた。