「そんなこと、考えたこともなかったな。アクスフィアで初等教育が義務化されて100年は経つ。確かに、平民が読み書き計算できるのは当たり前だ。中等教育学校も設置が進んでいる」

顎に手を当てて考え込まれるカイン王太子。もうすぐ13歳になるだけあり、身長も伸びてずいぶん大人びてこられましたわね。
図書館は紙の保護のため窓がなく、灯りのランタンの柔らかな光を浴びた彼のプラチナブロンドは輝き、白い肌を浮き立たせます。白いシャツからのぞく胸がせくしーですわね。

彼とは仮の関係なのですから、関わらないに越したことはありません。

「では、わたくしはこれで」
「待て」

淑女の挨拶をして逃げようとしたわたくしを、なぜかカイン王太子は呼び止めました。

「これがいい…と思う。持っていけ」

御自分が積み上げた本の中から抜き出し、差し出されたのは赤い背表紙の本。

それは、わたくしがずっと探してもなくて諦めていた貴重な本ではありませんか!

「バザダール教育論……え、いいのですか!?」
「オレがずっと頼んでつい最近入ったんだ。よければ読め」
「あ、ありがとうございます!」

飛びつくように受け取り、思わず笑顔で彼にお礼を言いましたわ。

「これで、わたくしの国もようやく教育が充実しますわ!本当に、ありがとうございます」
「い、いや…役立つならいい」

なぜか、カイン王太子はプイッと明後日の方を向いてしまい、耳が赤く見えましたが…きっと6月で暑かったからでしょうね。