朝食は、絵に描いたようなものだった。
 焼きたてのパンと温泉卵つきのサラダ、フルーツがたっぷり入ったヨーグルト。

「わ……美味しそう!」

 パンにバターをたっぷりと乗せて、かぷりと噛み付く。濃厚なバターの香りがふわっと広がり、オリヴィアは思わず唸った。

「美味し過ぎる〜」

 学校や王宮の料理より美味しい。なにより食材がどれも高級だった。

 レイルは美味しそうにパンを頬張るオリヴィアを見つめながら「口に合ってよかった」と、笑った。

「食後はコーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「え、いいよ。それくらい自分でできるから」
「いいんだよ。僕がやりたいんだ」

 レイルの藍色の瞳がとろりと揺らめく。

「う……」

 オリヴィアはこの瞳には弱い。

「じゃあ……紅茶でお願いします」

(このままじゃ私……ダメになるのでは)

 悪役令嬢だったはずなのだが。

「……あ、じゃあせめて手伝わせてよ」 
「それはいいけど……うーんでもなぁ。オリヴィアさんが火傷とかしたら大変だし」 

「でも、ずっと見てるだけなのはつまんない」
「それもそっか。オリヴィアさんは優しいなぁ」

 オリヴィアは俯く。

「そんなことないよ。レイルくんの方がよっぽど優しいし……」
「僕は、ただオリヴィアさんと一緒にいたくているんだよ」
 
 レイルはすんなりとこういう言葉をくれる。そのたびにオリヴィアはぐ、と言葉に詰まった。

「ねぇ、どうして? 私、そんなにレイルくんに思ってもらえるような人間じゃないよ?」

 ヒロインのような魅力もなく、ひとりではなにもできない悪役令嬢。

 おまけにまったく関係のない純粋な第二王子を巻き込んでしまった。
 
「……僕はただ、オリヴィアさんのそばにいたい。それだけだよ」

「……ありがとう。私、今度こそレイルくんの力になれるように頑張るよ」
「じゃあ……お願いがあるんだけど」
「お願い?」

 レイルがずいっと顔を寄せた。
 
「僕と結婚してほしい」

 どきん、と心臓が跳ねると同時に、スプーンに乗っていたイチゴがぽとりと落ちた。