牢の付近や出入口には、見張りはいないようだった。おそらく鍵を新しく頑丈なものに変えたため、見張りを撤退させたのだろう。
 無事地下牢の入口を抜けて、ホッとする。

(……このままこっそり抜け出して、街まで出られれば)

 そう思い、ハッとして考え込む。

(ラファエル王子の周辺を探れば、ソフィア様がいなくなった経緯や状況も分かるかな)

 王宮に背を向けてから考え直す。振り返ると、そこには石造りの豪奢な城がそびえ建っていた。

 その瞬間、王宮の入口門が音を立てて開き出した。ぎょっとして、オリヴィアは隠れる場所を探す。

 石像の裏に隠れ、息を整える。

(……し、心臓が飛び出すかと)

 城から出てきたのは、ラファエルだった。家臣となにやら話している。

「拷問でもなんでもして、ソフィアの居場所を聞き出せ」
「しかし……彼女はローレンシア公爵家の」
「オリヴィアはローレンシア家からとっくに勘当されてる。問題ない」
「はっ」

 ラファエルはそのままオリヴィアの脇を通り過ぎていく。気配が近付き、オリヴィアは身を固くした。

「私は街にもう一度ソフィアを探しに――」

 ラファエルが振り返る。そして、足を止めた。

「――待て」
 ラファエルの声が低くなる。

「どうなさいました?」
「地下牢の扉が開いているが」
「え?」

 ラファエルの声が一層不機嫌になる。

(……まずい。バレた)

 どうしよう、と狼狽する。
 ラファエルは地下牢の入口へ歩き出した。オリヴィアの所在を確かめに行くつもりなのだろう。

(このままここにいたらすぐに見つかっちゃう……)

 逃げなければ。
 ラファエルが背中を向けている今のうちに。
 幸い、家臣たちもラファエルの後に続いていこうとしている。

 そっと歩き出した瞬間、あろうことか一歩目で小枝を踏んだ。

 パキッと高らかな音が空に抜けるように響く。