「どうして謝るの? 交換ってことで。お礼は気にしてないけど,気持ちはうれしい」

「あ,りがとう,ございます。南さん」



ペコリといちご·オレを抱えて去ろうとする陽深ちゃん。

真っ赤な顔,真っ赤な耳。

何がそんなに恥ずかしいんだろう。



「ねぇ,待って。陽深ちゃん」



どれだけ距離を取ろうとしても,引き留めれば振り向いてくれる。

 

「静流で,いいよ。さっき,わざわざ言い直してくれたでしょ」



静流くん。

陽深ちゃんの中で,俺はそう呼ばれていたんだって,少し嬉しかったんだ。



「またね,陽深ちゃん。早くしないと,遅れちゃうよ」




耐えられないように目をつぶる陽深ちゃん。

けれどそこに,嫌な意味は感じられなくて。

はいと小さく応えて,陽深ちゃんは走り去っていく。

……急ぐのは,俺もか。

本当はすぐに飲むつもりだった飲料。

途端に特別になったそれを,すぐに開けることは出来なかった。