カオルの強い気持ちに、心が揺れる私は臆病なのかもしれない。

「だからミク、俺と結婚してほしい」

「……カオル」

 婚約破棄したいと思ってたのに、私はどうしてカオルの言葉がこんなにも嬉しくなるんだろう……。

「俺はお前を大切にする。約束する」

「っ……ずるいって、だから」

「ずるくない」

 カオルはずるい。カオルは私が好きな人がいてもいいって言ってくれる。
 そんなの、本当は納得出来ないはずなのに。

「ミクは本当に、俺との婚約破棄を望んだのか?」

「そ、れは……」

「言っておくけど、婚約破棄するつもりは、俺にはないから」

 アイスコーヒーを飲みだすカオルの顔を見つめると、カオルは「婚約破棄なんて、してやらないからな」と釘を差すように言ってくる。

「……分かった。婚約破棄、しない」

「分かればいいんだよ。 お前は俺の女だ。誰にもくれてやるつもりはないな、今後も。ずっとずっとだ」

「わ、分かったから!」

 もう、カオルの強引さには敵わない。 でも、カオルはこういう人だった。
 出会った頃からずっと、変わらない。 でもこれが、カオルの性格なんだ。

 カオル・ベニヤ。 私の婚約者。