悪役を買って出た令嬢の、賑やかで切なくて運命的な長い夜のお話

幸いな事に王からの返事はまだないが、次の瞬間にでも首を縦に振られてしまったら全てが父の思い通りになってしまう。
 王子とエバは幼なじみ同士で気心も知れている。
 エバの出自も問題なく、妃の生家としての家柄も問題は無い。
 まだ返事が無い事が逆に不安な位だが、王が迷うのは父自身の噂についてかもしれないとエバは考えていた。
 勿論、自分からも父に抗議を何度もしたが、何を言っているのだと怒鳴られ最後はぶたれてしまった。
 その時、エバはもうこれは父に何を言っても無駄だと悟った。
 とにかく、時間がない。
 どうにかしなければと、ずっとずっと考えている。
 今日だって話し合う約束をしたから城まで来たのに、二人が居なくなってしまったので不安に駆られて庭園まで探しに来たのだ。
 二人がエバに迷惑を掛けないようにと距離を取るほど、エバは悲しくて仕方がなかった。
 三人一緒には居られない状況だとしても、寂しくて仕方がなかった。
 それは自分のわがままだと理解は出来ても、心がそれになかなか納得してくれない。
「それで、エバ様は何を……」
「二人は駆け落ちする気なんです。身分も責任もここへ置いて……後ろ指さされるような事はあの二人にはさせられません」
 誰にも見つからず、王族や貴族が国外へ逃げおおせるなんて無理な話だ。
 ましてや何の手配も無く二人は無理だ、だけど一人なら……。