ふと、さっきまでエバを付けてきていた男達を見ると、突然のアンドレアの登場に狼狽えていた。
 帝国騎士団の正服を着た人間が突然現れたら、誰だって驚くだろう。
 しかも王都の人間ならきっと誰だって知っている、若者ながら騎士団一の剣の使い手と噂される人物だ。
 おまけにこの容姿、目立たないはずがない。
 アンドレアは、後ずさる男達に声を掛けた。
「……お前ら、この方に何しようとしていたんだ?」
 低くお腹の底がぞくりと冷える声。
 エバは顔見知りの登場と、普段とは全く違う雰囲気。
 ごうっと強い風が、男達との間に吹き抜ける。
 途端に安堵と不安が入り交じり、抱き留められたままアンドレアの正服の袖をぎゅっと握った。
「……エバ様が俺に頼ってくれてる……」
アンドレアは驚いた顔をして、エバを見た。
「た、頼ります、今だけは助けて」
 今だけでいいから、と消え入りそうな声でエバはアンドレアを見上げて懇願した。
 これから一人きりで生きていく。そう決心して家を飛び出したばかりでこの状況は情けなかったが、背に腹はかえられない。
「絶対助けますよ。エバ様が頼ってくれて嬉しい……」
 赤い瞳が、嬉しそうに細められる。
 アンドレアは、エバを抱き留めたまま男達に向き合った。
 エバもアンドレアの足でまといにならないようにと、しっかりと目を開いて男達を見る。
「さぁ、これ以上この方を怖がらせるなら、カナン帝国騎士団アンドレア・ブルースが直々に相手してやる」
「あ、いや、違うんだ。道に迷ってるのかと思って……なあ?」
 一人の男が慌てたように答えると、他の男も同意だとばかりに強く頷く。
「エバ様、あいつらはそう言っていますが……貴女の命令があれば斬り捨てても構いませんよ」
 エバは、その言葉にぎょっとしてしまった。
 アンドレアの瞳は、本気だと訴えているからだ。
「そ、そんな簡単に、だめです! アンドレア様が来てくれたから私は大丈夫ですから! 」
 斬っちゃだめです! そう強く言うと、男達は一斉にわあわあ叫びながらその場から足をもつれさせながら逃げ出した。
 エバはさっきまであんなに怯えていたのに、今はアンドレアが追いかけていかないように袖を握って引き留めるのに精一杯だった。
 男達が完全に見えなくなってから、エバはそろりと袖から手を離した。