夜が明けたら乗り合いの馬車を乗り継いでひたすら国境を目指す。
 それがエバの計画だ。
 侍女から王都から郊外への交通手段を聞き出すのは苦労したが、市中の事を貴族として知る為と言ったら丁寧に教えてくれた。
 乗り合い場が開くのは早朝。それまで何処かで身を隠していたいが、手紙が王子の元へ届いた後、捜索隊でも出されたらと考えると少しでも早く王都を離れた方がいいと考えた。
 ( 早く、早く、行かなくちゃ)
 夜の王都は、思っていたよりもずっと賑やかだった。
 あちこちの酒場からは笑い声が響く。腕を組み歩く男女の姿が目立ち、まるで昼間とは違う雰囲気にたじろぐ。
 一人で歩くエバに視線を投げる男達の横を通る時には、怖くて思わず目をつむってしまいそうだった。
 (こんな風が強い夜に、なんで道端なんかに集まって座り込んでるの……!)
 緊張からか、じとりと汗をかく。
 何かがあれば、エバは全力で走って逃げる事が出来ない。
 だからこそ嫌な想像はどんどん加速し、気を抜くと喚いてしまいそうだ。
 しかし、そんな事をしたら余計に男達の興味がこちらに向いてしまう。
 なるたけ男達を刺激しないよう、視線を合わさず下を向いて通り過ぎようとしたが、それは難しい話だった。
「こんばんは、美しいお嬢さん」
 男が気取ったように言うと、周りの連中がげらけら笑い出す。
 エバは自分が笑われているように感じて、とても嫌な気持ちになった。
 聞こえないふり、は今さら難しいが、どうしても足を止めたくない。
 止めたら囲まれる雰囲気だ。荷物を奪われたら、生活資金と宝石を奪われてしまうかもしれない。
 息を詰めて、トランクの取っ手を握り締め、あるたけ足早に男達の横を通り過ぎた。