エバ・クマールは、カナン帝国の至宝と呼ばれる煌めく翠色の瞳に憂いを浮かべていた。
 ひとつ瞬きをする度にキラキラと宝石でも散らすような長いまつ毛も、今は白い頬に影を落としている。
 輝く金糸を集めた豊かな髪を指先に絡ませ気を紛らわせながら、近距離から穴が空きそうなほど見つめてくる視線に耐えていた。
「……アンドレア様、見過ぎです」
 とうとう黙っていられなくなり、こそりと小さく呟いた。
 アンドレアと呼ばれた男は、端正な顔ににっこりと笑みを浮かべる。
 彼のファンなら失神してしまいそうな神々しく後光でも差しそうな笑みも、エバはすっかり見慣れてしまった。
 一年前、帝国騎士団に入隊してきたアンドレア・ブルースは、気がつくとエバの側に現れるのだ。
 やたらと整った顔立ちに、彫刻のように均整が取れた体。年は二十三歳。
 艶やかな黒髪、印象的な赤い瞳でエバに甘く語りかける。
 エバにはどうしてこんなにもアンドレアが自分に構ってくるのか分からなかったが、引き際のタイミングが絶妙で注意出来ずそのままになっていた。
「何を言っているんですか。一分一秒、美しい
 い貴女を目に焼き付けておかないと勿体ない」
「そんな大層なものでも無いでしょう」
 ドキッとしてしまったのを悟られないようにしたら、少し冷たい言い方になってしまった。
「……誰かがそう言ったのですか? 教えて下さい、そいつ殺してきます」
 ルビーに似た赤い瞳を意味ありげに細めるので、エバは慌てて首を振った。