ピアニストは御曹司の盲愛から逃れられない


 「乾杯」
 
 ふたりはグラスを飲み干した。
 神楽が堂本に注ぐ。自分の分も入れる。

 「驚いたよ。急に仕事のはなしを持ちかけられたから……」

 神楽は黎の整った顔を見ながら話し始めた。
 
 目にも鮮やかな料理が運ばれてきた。
 ロンドン以降、パリ、フランクフルトなどを別な交響楽団と演奏で回って、最近日本へ戻ってきた。
 日本料理は正直嬉しい。

 「まあ、ゆっくり話すとしよう。食べてくれ。うまいぞ」
 「ああ、見ただけでわかるよ」