もう唄わないで


「えっ?旧校舎?」



私は窓の外、グラウンドの向こうを指差し、璃花子ちゃんの顔を見る。

璃花子ちゃんはゆっくり頷く。



「……いい?旧校舎から月が見えない時に、旧校舎で【うるおい鬼】をしちゃダメ。なんでかって言うとね……」

「うん」
と、みんなで頷く。



「旧校舎が作られる前、そこには古いお屋敷が建ってたんだって。そのお屋敷にはね、どこかから引っ越してきた商人の一家が住んでいて、一人娘に縁談の話があったの」

「縁談?」



仲谷くんがまた考える仕草をする。

勇気くんが「結婚の話だよ」と、小さな声で教えていた。



「その娘はその縁談に乗り気じゃなくて。でも縁談の話は本人無視でどんどん進んで。望まない結婚をしなくちゃいけない前夜にね、娘は【うるおい鬼】をしたんだって。そしたら、遊んでいる人数より、ひとり多いことに気づく。……【鬼の子】がどこの誰なのか、わからなかったんだって」



私の背中に、冷たい汗が流れた気がした。

璃花子ちゃんは、声のボリュームを落として続ける。