もう唄わないで


「えっ、いえ、退屈じゃないです」



慌てて返事をする。



「ふふっ、懐かしいけど、まだ緊張しているのかな?」



勇気くんのお母さんは、ニコニコしている。



「川口くん、今日のこの同窓会を開くのに、全面的に協力してくれたのよ」
と、聞いてもいないのに話し始めた。



「この教室を借りるのも、みんなへのお知らせも、川口くんが率先してやってくれたの」

「……そうなんですか」



私にはそれ以外の返事がわからない。

良い子よね、と勇気くんのお母さんはしみじみと言う。



「ねぇ、響ちゃん」

「はい」



勇気くんのお母さんはじっと私の目を見た。






「どうして、勇気がいなくなったすぐ後、あなた引っ越したの?」






「……えっ?」

「おかしいって思ってしまうのよ。ごめんなさいね、こんなおばさんで。だけど、教えてほしいの。あなたがなぜ、星無市から出て行ったのか」