そもそも、私はまだバイトなんてする気はなかった。


猛勉強の果てに、なんとか合格できた第一志望の緑ヶ丘学園に入学して1年が過ぎた。


2年生に進級して、やっとクラスの中で仲のいい友達もできて、一緒に勉強したり、放課後はカフェに言っていろんなトークで盛り上がったり、毎日がとても充実していた真っ最中だった。





それなのに──。


こんなことになってしまった全ての原因は、私のお父さんにある。


お父さんが経営している小さな和菓子屋さん『菓子処なんの』が過去最大の経営難に陥り、このままだと潰れてしまうと聞かされたのが1週間前のこと。



そしてそんな危機を救ってくれると名乗りを挙げてくれたのが、日本屈指の資産家であり、今、私の目の前にいる千瀬垣くんのお爺さまだったのだという。

なんでも、お父さんの作る和菓子がすごくお気に入りなのだとか。





だけど、千瀬垣家からの融資を受けるには、1つだけ条件を呑まなければならなかった。


それがこの人、お爺さまの孫であり、千瀬垣家の跡取りである……千瀬垣 優世の『お友達』になることだった。