しばらくすると渋滞は落ち着き、昴は、サラと心を車で送ると言って三人で部屋を出る。

マンスリーマンションに着くと、サラは二人に笑顔でハグをし、何度も礼を言う。

エントランスに入って行くのを見届けてから、昴は次に心のマンションへと車を走らせた。

「久住、今日は本当にありがとうな。サラ、もの凄く楽しそうだった」
「本当だね。浴衣もとっても喜んでくれて、花火も興奮して見てたし。日本を楽しんでくれたのなら、良かったなー」
「ああ、そうだな。あんなに嬉しそうなサラは初めて見たよ」
「それに伊吹くん。私にまで浴衣をありがとう!びっくりしてお礼も言えてなかったけど、本当に嬉しかった。いつの間に用意してくれたの?」
「ん?まあ、休みの日にね」

昴は、照れたように短く言う。

「わざわざまたあのお店に行ってくれたの?本当にありがとう」
「いや、いいんだ。俺が勝手にやったことだしね」

やがて心のマンションに着くと、昴は先に車を降り、助手席のドアを開けて心に手を差し伸べる。

「足元気をつけて」
「ありがとう!」

髪を結い上げた浴衣姿の心に笑顔を向けられ、ぼーっと見とれた昴は、知らぬ間に心を胸に抱き寄せていた。

心の綺麗なうなじが目に入り、思わずドキッとした時、胸の前でくぐもった声がした。

「伊吹くん、私日本人だから。別にハグしなくていいよ」
「あっ!そ、そうだな。ごめん」

我に返り、慌てて身体を離す。

「じゃあ、送ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね。お休みなさい」
「あ、こちらこそ、ありがとう。お休み」

そそくさと車に戻り、昴は顔を赤くしながら車を走らせた。