「えーっと、確かこの辺りだったはず…。あ、あそこ!」

あの時の呉服屋が見え、心は昴を笑顔で振り返って手招きした。

「こんにちは!」

お店の奥に声をかけると、すぐに和服姿の優しそうな女性が現れる。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「はい、あの。外国のお友達に浴衣をプレゼントしたくて。着るのが簡単なものってありますか?」

心は、あの時じっと浴衣を見ていたサラに、花火大会の日にプレゼントしようと思い立った。

昴もその提案に頷き、仕事を半休にして、心のオフの日に二人でもう一度やって来たのだった。

「外国の方でも簡単に着られる浴衣ですね。ございますよ」

そう言って、いくつか見せてくれる。

「こちらは今人気のセパレートタイプです。着方は、もうお洋服と同じですね。帯も一体化しているので、結ぶ必要もありません」
「へえー、こんなのがあるんですね」
「ええ。小さなお子様にも人気ですよ。それとこちらは作り帯のタイプです。浴衣を着たら、この帯を巻いて留めるだけなので、帯結びが出来なくても大丈夫です」
「わあ!これならいいかも。セパレートタイプは、外国の方に浴衣としてプレゼントするのは少し気が引けちゃうかな。日本の着物とは、かけ離れているかもって」

すると、店員の女性も大きく頷く。

「そうですわね。わたくしもこちらをお薦め致します。それにこちらは、帯の組み合わせが自由ですので、お好きな色の帯を選んで頂けますよ」
「そうなんですね!じゃあ、えーっと、この鮮やかな黄色の浴衣にはどんな帯が合いますか?」
「そうですねえ、大人の女性でしたら、この桔梗をイメージした紫の帯はいかがでしょう?」

実際に組み合わせて見せてくれる。

「素敵!とってもいいと思います。伊吹くんはどう思う?サラに似合うかな?」

昴は、じっくり浴衣と帯を見てから心に頷いた。

「ああ。彼女の好きそうな色だ。きっと似合うし、喜んでくれると思う」

心も笑顔で頷いた。

「じゃあ、これにします!」

そして心は、もう一度しっかり着方を教わってからレジに向かった。

「久住、ここは俺が」

横から割り込もうとする昴を、心は手で遮る。

「え、いいよ。私がサラにプレゼントしたいんだもん。それに浴衣といっても、これはそんなに大きな金額じゃないし」
「でも、サラは俺の取引先の知り合いだし…」
「最初はそうでも、今は私の友達なの!」

心は有無を言わさぬ勢いで、クレジットカードを店員の女性に渡した。