「久住、久住?おい、朝だぞ。仕事に遅れるんじゃないか?」

結局ソファで夜を明かした昴は、翌朝の7時に寝室へ行き、心を起こした。

掛け布団の上から、すらりとした腕が素肌をさらしており、昴はなるべく見ないように目を細めて布団ごと心を揺する。

「んー…」

心が気だるげに顔をしかめて、ゆっくりと目を開けた。

キャーという悲鳴に備えて、昴は大きく一歩下がって身構える。

だが、心は昴を見ると、今何時?と短く言った。

「え?今、7時だけど」
「今日遅番だから、9時まで寝られるの。お休みなさい」

そう言って、またスーッと寝息を立てる。

「あ、そう…。お休み」

昴は呆然としながら、とりあえず寝室をあとにした。

9時にもう一度起こしに行くと、今度はパチリと目を開け、うーんと伸びをする。

「おはよう、伊吹くん」

にっこり笑う心に、昴は顔を引きつらせる。

「お、おはよう、久住さん」

予期せぬ心の言動に、理解不能となった昴は、もはや親しい口調には戻れず、よそよそしくそう言う。

「はあー、良く寝た」

心はガバッと身体を起こし、昴は慌てて背を向けた。

「じゃ、じゃあ、朝ご飯用意するから」
「ありがとう!すぐ行くね」

そそくさと部屋を出た昴は、ドアを後ろ手に閉めてため息をつく。

(はあー。俺、めちゃくちゃ振り回されてる気がする。凄いな、これが宇宙人の遠心力か…)

もはや思考回路も正常には働かない。

今までの己の経験や学んできた知識も、何の役にも立たない。

昴は、考えるのはやめて、流れに身を任せることにした。