「伊吹くん、お帰りなさい」
「ただいま。色々ありがとうな、久住」
「ううん、全然」
「さ、とにかく入って」

5月8日。
ようやく終わったゴールデンウィークの次の日に、心は昴のマンションを訪れた。

「昨日帰って来たばかりなんでしょう?時差ボケは大丈夫?」
「ああ、慣れてるから平気。久住こそ、せっかくの休みの日に悪いな」

そう言って昴は、心に紙袋を渡す。

「はい、これ。お土産」
「え、わー!いいの?」
「もちろん。開けてみて」
「ありがとう!なんだろう…」

心はワクワクして包みを開ける。

「マグカップだ!かわいい!」

日本では見かけない、なんとも洒落たイラストのマグカップを、目の高さに上げてじっくり見てみる。

「持ち手もクルンってなっててオシャレだね。色も綺麗だし。いいの?頂いちゃって」
「ああ。色々してもらったのに、高価のものじゃなくて申し訳ないけど」
「ううん!そんなことない。凄く素敵なマグカップ。使うのが楽しみ!」

心の笑顔に、昴も頬を緩める。

「あと、こっちはお菓子なんだ。チョコレートにクッキー。これはジャムの詰め合わせ。で、こっちは…」
「ええー、こんなにたくさん?!」
「そんなにたくさんでもないよ」
「たくさんだよ!それに、どれもこれも美味しそうだし…ん?」

ふと真顔に戻った心に、どうかした?と昴が声をかける。

心は、テーブルの上のお土産に顔を寄せた。

「うわー、なんだか外国の香りがする!」

そう言って目をつぶり、大きく息を吸い込む。

「はあー、不思議な気分。ねえ、伊吹くん」
「ん?」

昴が顔を上げると、いきなり心はテーブルに身を乗り出して昴の耳元に顔を近づけた。

(く、久住…何を?)

固まっている昴の耳元で心が囁く。

「伊吹くん、サンフランシスコの香りがする」

すうーっと小さく深呼吸してから心は首をかしげ、昴の正面でにこっと笑った。

「ちょ、ちょ、チョコ食べる?」

とっさに変なことを口走る昴に、うん!と心は頷く。

「開けていい?わー!色んな種類がある!これは?キャラメルトリュフかな…」

箱の裏とチョコを真剣に見比べる心から視線を逸らし、昴は真っ赤な顔で、はあー…とため息をついた。