「久住。お前、イカ捌くのは下手だけど、サバはめっちゃ速いな」

隣に並ぶ佐伯が、横目で心の手つきを見ながら言う。

他のメンバーがショーの準備や練習に向かったあと、佐伯は調餌を手伝ってくれていた。

「そうなんですよー。桑田さんにも言われました。サバを捌くのが上手いから、サバサバ女だって」

ブハハ!と佐伯は盛大に笑う。

「確かに、それは言えるな。色んな意味でサバサバ女だ」
「ちょっと!色んな意味ってなんですか?」
「まあ、ハッキリ言うと性格もサバサバ。髪型はボサボサ」
「えー、ひどーい!サバサバのボサボサ女ってこと?!」

アハハと佐伯はおもしろそうに笑っている。

(まあ、いいや。佐伯さん、元気そうだし)

心がそう思っていると、ふいに佐伯が真顔で言った。

「久住、ありがとな」
「え?何がですか?」
「いや、うん。俺さ、やっぱりちょっと怖いんだ。多分、今は飛べない。無理にやったら、俺もルークも怪我をすると思う。それに、あの時のヒヤッとした感覚が消えないんだ。だけど…」

佐伯は、包丁を持つ手を止めて心を見る。

「俺、お前の言うように、またいつかルークと飛びたいんだ。必ず、いつかまた。だから、焦らず少しずつ、1から頑張ってみるよ」
「佐伯さん…」

心は目を潤ませる
さっきの話を、ドアの横で聞いていたのだろう。

佐伯の決意に満ちた瞳を、心はじっと見つめて頷いた。

「佐伯さんなら必ずまた飛べます。ルークも絶対そう思ってます。だから、少しずつ少しずつ、二人で感覚を取り戻していってください。そしてまたいつか、あの美しいジャンプをみんなに見せてくださいね」
「ああ、分かった」

心はふっと頬を緩め、佐伯と微笑み合った。