パン屋さんの香りってすごく落ち着けて、お腹がすく。



「あの子、試食しすぎじゃない?」



また一つ、パクっと試食のパンを頬張る私、藤堂ひみか。

中学3年生。



「試食なくなっちゃうよ?」

「俺、ちょっと言ってくる」




パン屋の店員は、レジでの話し合いの結果、ひみかに注意することになった。



(家が不自由なのかもしれない)

店員たちは初めそう思ったけど、見た目もちゃんとしてるし、そんな風には見えなかった。




一人の男が、ゆっくり、それでも大股でひみかに近付いていく。



黒ぶちの眼鏡にサラサラの黒い髪の毛。



白いシェフみたいな制服がよく似合っていて、男の格好よさを引き立てていた。