顔を上げると、花村が仁王立ちをしている。

 昼間のことを話しに来たと、すぐに察する。


「……それ、どういう意味」


 花村はいつの間にか空席になった前の席に、横向きになって座る。

 足を組み、頬杖をつく。

 そして、俺を睨みつけてきた。


「片倉さ、いつまでも由依が自分に笑いかけてくれるなんて、甘いことを思っていたでしょ」


 一言一句その通りで、なにも言い返せない。


「……由依は?」
「教室で待たせてる。一人で帰らせるのは、心配だから」


 そんなに弱っているのかと心配になったが、今由依のところに行っても、逃げられる未来しか見えない。

 大人しく花村と話をするのが得策だろう。


「花村はなにをしに来たんだ」
「愚か者に言っておこうと思って」


 わざわざ『愚か者』を強調して言うあたりが、やっぱり好かない。

 まったく、どうして花村が由依と仲がいいのか、不思議でならない。


「もう、由依に関わるのはやめて」


 どうして、とは言えなかった。

 なんとなく、心当たりがあるから。


 でも、素直に承諾することもできなかった。


「由依が言ったのか? 関わりたくないって」


 もしそうなら、少しは距離を置こうと思える。

 花村の独断行動なら、従う理由もないだろう。