深優がはっきりと嫌がっていると言ってしまったことに気まずさを感じて、私は視線を逸らす。


 壱は静かに手を離した。


 意外とすんなりと解放されたから、安心して壱を見ると、壱が傷つけられたみたいな顔をしていた。

 その表情に、胸が締め付けられる。


「……また来る」


 どうして壱がそんな顔をするのか気になったけど、壱がすぐに去ってしまって、聞けなかった。


「まったく、由依を自分の所有物とでも思ってるのかな、アイツは」


 深優の独り言は、思いのほか私の心に突き刺さった。

 でも、腑に落ちている私もいた。


 幼なじみではなくて、所有物。

 こんなにもしっくりと来て、悲しいワードはない。


 しかしながら、もし壱が本当にそれに近い捉え方をしているのだとしたら、私の想いが報われないことは、明白だ。


 やはり、壱を好きでいるのは、やめるべきなのかもしれない。


「ごめん、由依。言葉を間違えた」


 深優は慌てた様子で謝ってくる。

 本当に何気なく言ったからか、余計に申し訳なさそうにしている。


「ううん、私もそんな気がするし、気にしないで」


 精一杯の作り笑いを見せて、私は化学室をあとにした。