そう感じてしまって、私の足は動かなくなった。


 そのとき、壱は顔を上げて、私に気付いた。


 綻ぶ顔。


 ああ、ダメだなあ。


「由依、着いたなら連絡しろよ」


 少し乱暴な物言いだけど、心配ゆえのものだと思うと、壱の優しさが染みる。


 それに加えて思いが溢れたのもあって、私の視界は滲んだ。


「由依?」
「私、壱が好き……大切なの。過去なんかじゃない」


 すると、壱は私を抱き締めた。


 こんなにも壱の香りが近いのは初めてに近くて、私はどうすればいいのかわからなくなる。


「嬉しいけどさ……こういうのは普通、デート終わりに言うもんだろ」
「だって、言いたくなったから」


 壱は私から離れる。

 困惑したくせに、寂しく思う。


「キスしていい?」


 周りのざわめきを聞いて、街中だと気付く。


「……ダメ」


 壱は私の手を繋ぐ。


「じゃあ、デートが終わってからで。今日は楽しもうな」


 そんな予告をされたから、恋人としてのスタートは緊張でいっぱいだった。


 十年という長い片想いがこんなにも素敵な終わりを迎え、これからの壱との時間が楽しみでならない。


「ずっとそばにいてね」


 そして私は、壱の手を強く握った。