「由依、ごめん」


 昇降口を出ると、深優が謝ってきた。


 靴に履き替えることもせず、俯いて立ち尽くしている。


 私の返答を聞くまでは動かないという意志を感じる。


 私は深優に近付き、少しだけ震えている深優の手に触れる。

 深優と目が合ったけれど、今にも泣きそうな表情をしていて、そこまで自分を追い詰めていることに驚いた。


「どうして深優が謝るの?」
「だって、私、片倉に由依の気持ちを言ったようなものだから……」


 唐突に、腑に落ちた。


 どうして、あのとき深優が壱の胸倉を掴んでいたのか。

 私に見つかって、気まずそうにしていたのか。


 深優と壱が話していた内容は知らなかったけど、今の一言で、なんとなく察した。


 本当、私はいい友達に恵まれた。


「気にしないで。いつまでも言わなかった私が悪いんだから」


 それでも深優は笑ってくれなくて、私は無理やり、深優の口角を上げる。


 深優は少し痛がって、やっと微笑んでくれた。


 私は安心して、校舎を出る。


 安心したからこそかもしれないけれど、ようやく、深優が申し訳なさそうにしていた理由を理解した。


 壱は、私の気持ちを受け入れる気がないのかもしれない。