けど、もう、前みたいな笑顔は見せてくれないのかもしれない。


 そう思うと、俺は、遅すぎる後悔をした。


 しかし、今は後悔をしている場合ではない。

 今を逃すと、もう、ずっとこのままかもしれない。


「由依」


 脱力した花村を連れて教室を出ようとしているところを呼び止める。


 話に行こうと立ち上がるが、由依の表情を見ると、動けなかった。


『私はない』


 話があると言ったときの、由依の返事が頭をよぎる。


 今この状況で、俺の気持ちを伝えるなんて、できるわけがなかった。


「……また、明日」


 ほんの一瞬だけ、由依の緊張が解れたような気がした。


 もう、本当に手遅れらしい。


 自覚したのに、俺の今までのバカな行動で、取り返しがつかなくなってしまった。


 この気持ちは、由依には迷惑なのかもしれない。

 でも、このまま押し殺すことはできそうにない。


 そうしてしまうと、いつまでも由依を想うことになりそうだから。


 そして、花村からではなく、由依から直接『近寄らないで』と言われたら、諦められる気がするから。


 だから、一度だけ。

 最初で最後の告白をしよう。


 そう心に決めて、俺は教室を出る。


 どうしようもない後悔と、容易く想像できる悪い未来で、今までにないくらい、足が重たかった。