不服に思いながら「よろしくお願いします」と軽く頭を下げた。
彼はそそくさとブレザーからバイト先の制服に着替え終えると、事務所を出て行ってしまった。
契約に関して店長の説明を聞き、私は店を後にした。
でもまさか、あの御空奏とバイト先が同じになるなんて。
まるで想像もしていなかった。
帰り道、ローファーでアスファルトを蹴り歩く。
「…………ハァ、」
オンボロアパートの錆びついた階段を上がって、玄関から家に入る。
鉄の扉を開けて見えた光景に、重く、熱い息を肺からおもいきり吐き出す。
台所に溜まっている汚れたお皿やコップの山。
脱ぎ捨てられた衣服、リビングのテーブルの上には食べかけのカップ麺の容器や、コンビニ弁当のプラスチック容器。
負の雰囲気にあてられて、心の中がもやもやと灰色に染まっていくような感覚に襲われる。
手のひらにぐっと力をこめて、歯を食いしばった。
……早く大人になって、この居心地の悪い家から出て行きたい。
そのためにはお金が必要。
だからこそ、今日採用してもらったアルバイトを頑張らなければならない。
学校が終わったら。
土日や祝日、休みの日も。
空いた時間は、すべてアルバイトに捧げてもいい。
それくらいこの家が……嫌だ。
「…………」
でも、やっぱり。
"どうして私だけ──。"
この気持ちが心を支配して、吐き気がする。
親がまともであれば、こんなに苦労することも、不幸を背負うこともなかった。
もっと、もっと、可愛い自分でいられた。
クラスメイトと同じ目線でいられた。
たまにふと思う。
クラスメイトが笑っているとき、たまに孤独を感じる。
── "そんなくだらないことでどうして笑えるの?"。
毎日毎日なにかにイライラして、いつも喉元にナイフをつきつけられているような感覚がする。
きっとこれまで能天気に生きてきたクラスメイトたちは、こんな感覚は味わったことがない。
そうじゃなきゃ、あんな揃いも揃って、馬鹿面で毎日を生きてはいないだろう。
早朝までゲームをしてしまって、寝ずに学校に来ただの、先生の髪の毛が薄いだの。
そんなの、心底どうでもいい。
「……っ……」
きっと、きっと。
こんな風に。
自分と正反対のように生きるクラスメイトを、恨めしいと醜い目線で見ることも。
帰宅しただけで、泣きそうになることも。
きっと、きっと。──なかった。



