「余命三か月、だれが?」

 お父様たちは、わけがわからないという感じでおたがいの顔を見合わせた。

「わたし、きいたのよ。わたしの診察の後、書斎で話をしていたでしょう?」

 思い出させてあげた。

「もしかして、花の話では?」

 主治医がおずおずと答えた。

 彼とお父様は、宰相でありカサンドラのお父様のファビアン・ヴァレンシュタイン公爵が財産の半分以上を投じて入手した「奇蹟の花」の病のことを話していたらしい。その名にふさわしい花らしいけれど、かかってしまった病もまた「奇蹟」的な死病だとか。

 助かる方法はなく、ただ死を待つのみ。死を目前にした「奇蹟の花」は、最後の力を振り絞って大輪の花を咲かせるらしい。

 その辺りは、わたしが立ちぎきした内容に相違ない。

「だったら? わたしの胸のムカつきはいったいなに?」
「ただの胸やけです。ふかしたイモのバター添えの食いすぎです」

 主治医は、視線を合わせてから自信をもって答えた。

「ニ十個以上の大きなふかしイモに大量のバターとともに食ったら、胸がムカつくのは当然です。お嬢様なら放っておいても胸やけは治りますが、念のため薬を処方しておいただけです。あれ以降、なんともないですよね?」

 そう言われてみれば、あれ以降なんともない。

 胸が痛むことはあるけれど、それはちょっと違う気がする。