大理石の床上に、彼女の自慢の顔にあたったものが転がっている。安物の宝石箱である。落下した衝撃でふたが開き、中身が飛び出している。

 玄関ホール上のシャンデリアの灯りを受け、二つのガラス玉が安っぽい光を発している。

「『オッドアイの泪』って、たしか金貨には換算出来ない貴重な宝石よね」

 本物は、その名のごとく二色のアメジストときいている。

 こんなガラス玉などではなく。

「ど、どうして? どうしてアイが持っているのよ」

 カサンドラは金切り声を上げた。

「決まっているわ。『孤高の悪女』だからよ」

 それがさも正論だというように応じた。

 彼女は、「部屋に埃がたまっているので至急掃除をして欲しい」、とアポロニア専属の侍女を呼びつけ命じた。そして、侍女が掃除をしている間に、侍女の掃除用具の中に宝石箱を忍ばせたのである。

 じつは、カサンドラがなにかしでかすことを見越していた。だから、侍女や執事たちに言いつけたのである。

 カサンドラに関わることはすべて教えて、と。

 彼女の部屋に掃除に行った侍女は、その足でわたしのところに来た。そして、彼女の掃除用具の中の宝石箱を見つけたのだ。

 それにしても、もうちょっとマシな方法はなかったの?

 ガラス玉を目の当たりにした全員が、彼女にそう尋ねたくなっているに違いない。

 そのとき、玄関ホールにまただれか入って来た。