「ここは廊下です。歩くところですので歩いていたのです」

 イルザを相手にするのは面倒臭いけれど、尋ねられた以上無視をするのは逃げることになる。だから、それがなにか? 的に応じた。

 それに、いまのわたしは意欲に燃えている。その勢いのまま彼女を挑発したくなったということもある。

「それはそうね。ごめんなさいね。お父様と先生にお茶を淹れてきました。あなたもいかが? ほら、クッキーを焼いたのよ。あなたの大好きなチョコチップクッキー。よければ、あとで部屋に持って行くわ」

 ほら、わざとらしい。

 しかも、すぐに食べ物でつろうとして。

 そうはいくものですか。

「いただきます。チョコチップクッキーだけ。わざわざ部屋に来ていただく必要はありません。瓶に入れて置いてください。適当につまみます。ほんと、お義母(かあ)様のチョコチップクッキーは美味しすぎて、ついつい食べ過ぎてしまいますわ」
「そう? うれしいわ。だけど、胸がムカムカするんでしょう? ほどほどになさってね。それと、先生から処方されたお薬も飲んでね」

 ふんっ!

 心配しているふりは、あなたも息子のエリーアスと同様うまいわね。