やはり騒動は起こった。

 皇太子妃候補の為の修行が終ったその夜に。

 客殿付きの侍女のリーゼが知らせに来てくれたとき、乗馬服のまま寝台の上に寝転んで待っていた。

 そろそろ起こるのではないかと、待ち構えていたのである。

 彼女に案内されたのは、客殿の玄関ホールだった。

 皇太子妃候補たちだけでなく、客殿付きの侍女や執事たちもいる。もちろん、シュナイト侯爵夫人も。

 リーゼによると、アポロニアが侍女を使ってカサンドラの部屋からヴァレンシュタイン公爵家に伝わる宝石「オッドアイの泪」を盗み出させたという。

 カサンドラは、そのことでアポロニアを責め立てているらしい。

 このくだらない茶番を茶番だと思っていないのは、ここに集まった中ではカサンドラ一人に違いない。

 彼女の取り巻きたちでさえ、めちゃくちゃひいている。

「どういうことなの? どうしてくれるの?」
「ごめんなさい。そんな宝石の存在を知らなくて。ほんとうにごめんなさい」

 わたしのヒロインであるアポロニアは、カサンドラに責められてすっかり委縮している。しかも、相変わらずズレた解釈をした上で謝罪をしている。