「やっと来たか」

 コルネリウスは、この大陸一と言ってもけっして過言ではない美貌に勝ち誇った笑顔を浮かべて書斎の入り口に立っていた。

 腹立たしいかぎりである。

「アイ、かならず来てくれると思っていたよ」
「コルネイ、大した自信ね」

 腰に手を当て、小さく溜め息をついた。

「ああ、おれは自信家だからね。さあ、入れよ」
「お断りよ。はやく休みたいの。それに、こんな時間にあなたと二人きりで一つの部屋にいるなんて、このことがシュナイト侯爵夫人の耳に入ったらとっちめられてしまう」
「はっ! きみがか? どうせすでにやり込めたんだろう? アイ。とにかく、こんなくだらないしきたりをぶっつぶしてくれ」

 皇太子妃候補を集めてしごき、皇太子本人以外が皇太子妃を選んでしまうというのがしきたりである。そこに皇太子や皇太子妃候補の気持ちや心情の入り込む余地はない。

 こんなバカバカしいしきたりはない。

 せめておたがいに愛し合っている上で、結婚前にマナーやしきたりの勉強をさせればいい。

 まあ、皇太子や上位貴族になったら、結婚は政略の方法の一つでしかないし、ご令嬢はそれの道具でしかないのかもしれないけれど。

 それにしても、ほんとに面倒くさいわよね。