「これはこれは、『孤高の悪女』じゃないか。ははん。シュナイト侯爵夫人がプンスカ怒っていたのは、きみのせいだな?」
「わかっているなら、いちいち尋ねるまでもないでしょう?」

 わたしの前に立って威圧してきたのは、コルネリウスといっしょに育てられたフリードリヒ・シーゲル。バッハシュタイン公爵家同様四大公爵家の次男である。彼は、親衛隊の隊長を務めている。

 彼は、ストレートに言えばデリカシーもマナーも常識もなんにもない、脳筋バカ。うんざりすぎるほど体が大きくて、態度はさらにデカい。

 それなのに、わたしが「孤高の悪女」と呼ばれて嫌われているのとは違い、彼は「大きな聖人」と呼ばれてみんなから好かれている。
 彼はコルネリウスと同年齢で、乳飲み子のときに成り行きで皇弟夫妻の養子になったけれど、皇弟夫妻が事故死してから生家に戻った。

 だから、子どもの頃は皇宮ですごしていたので、コルネリウスと一緒に育ったようなもの。

 ちなみに、わたしとフリードリヒは、控えめに表現してもまったくあわない。

 あわなさすぎて笑ってしまうほどである。