「アイ、嫌なことをする必要はないわ。あなたがいなくなると、屋敷内が寂しくなる。だから、無理して行くことはないの」

 お父様は、使用人たちにはわたしの余命のことは知らせていないでしょう。でも、継母には告げたはず。

 寂しくなる、だなんて。

 彼女のあいかわらずの熱演に拍手を送りたくなった。

「ご心配なく。いまは興味津々なのです。嫌々でも無理をしているわけではありません。というわけで、当分戻って参りませんので」

 わたしがいったん「こうするの」と宣言したら、この大陸が沈もうが世界が破裂しようが、だれかがどうにか出来るものではない。

 この場にいる全員が、それを嫌というほど知っている。

 全員がただ呆然と見守る中、高笑いしながら去った。

 両手にトランクを持ち、高笑いしながら颯爽と去るその姿は、自分でも言うのもなんだけどシュールすぎる。

 まっ、「孤高の悪女」にぴったりな退場よね。

 ここに帰ってきたとき、大輪の花を咲かせて燃え尽きた後かもしれないわね。

 馬車道を門に向って歩きながら、屋敷を振り返った。

 お父様たちみんなが外に出て、こちらを睨んでいる。

 きっとちゃんと皇宮に行くのかどうかを見届けたいに違いない。

 これからは、静けさを存分に味わうといいわ。

 前を向いた。もう二度と振り返らなかった。