「碧斗ー!碧斗ー!!」


階段の下から大声で兄貴が呼んでいる。ゴリゴリの筋肉から出される声は野太くて力強い、口元に冷たい違和感と共にハッと目を覚ました。

え、寝てた?いつの間に…


「昼飯だぞーーー!」


そんな大声で言わなくても聞こえてるっつの、あさひん家まで聞こえるじゃねか!


「すぐ、行くからっ」


ぐしゃぐしゃと口元を拭いて階段を駆け下りた。

すでにいい匂いがしてる、わくわくしながら下りていくとすでにテーブルにはお昼ご飯の準備がされていた。焼きそばだ。

匂いにそそられ、すぐに席に着いて手を合わせた。

今日の昼は父さんに母さん、それと帰って来た兄貴と、2年ぶりの家族が揃った。


「拓海、急に帰って来てどうした?」


「いや、別に何もないけど…やっと休みが取れたからなんとなく」

「仕事忙しいのか?」

「あぁ、結構ね。毎日ぼちぼち」


父さんと兄貴が話してる。

兄貴の仕事は…なんだっけ?お年寄りとなんか、とかだったと思うけど詳しく聞いたことないからよくわからないな。とりあえず毎日大変らしい。

社会人ってやつはみんな忙しいのかな。


「碧斗は最近何してんの?」


もくもくと焼きそばを頬張るオレに目の前に座る兄貴が聞いて来た。ざっくりした質問にざっくりした答えで返した。


「別に、何もしてないけど」

「なんだよ、それ。なんかないのか?今ハマってるものとか」

「ないよ、特に」


ただひたすらに焼きそばを食べる。

兄貴と話すのは嫌いじゃないけど、イマイチどんな会話をしたらいいかわからない。13歳も離れてると趣味も好みも全然違うし。


「…じゃあ兄ちゃんに聞きたい事とかないの?」

「…なんで帰って来たの?」

「実家に帰ってきたらダメなのか!」


精一杯ひねり出した質問だったのに、母さんにもそうゆうこと言わない!って怒られた。そんなつもりで言ったんじゃないのに。

やっぱり焼きそばを食べるしかなかった。


「そーいえば拓海、お隣のあさひちゃんには会った?」


その言葉にちょっとドキッとした。


「さっき行ったら今日仕事だっていなかったんだよ」

「あら、そう。すっかり大人になってね、キレイになったのよ」


…そんなのわざわざ言わなくてもオレだって知ってるっつの。

余計なこと言わなくていいのにと思いながら母さんから麦茶の入ったコップを受け散った。


「今日の夜、また行ってみるよ。久しぶりにに会いたいし」