「あさひ!危ないだろ、車道側歩くなよ!」


津倉碧斗(つくらあおと)、小学1年生。

背中に背負った漆黒(しっこく)のランドセルはおれのお気に入り、黒じゃなくて漆黒(しっこく)なのがポイント。まだチビだけど、将来は2メートルぐらいのカッコいい男になる予定だ。


「………いんじゃない?どう考えても私が車道側でしょ」


隣にいるのは村瀬(むらせ)あさひ。
本人曰く、花の女子高生。


「何言ってんだよ、女が歩道側に決まってんだろ」


グイグイとあさひの体を押し込み、無理やり移動させる。


「ちょっと!小学生なんだから危ないでしょ!碧斗が歩道側歩いてよ!」

「小学生とか高校生の話じゃねぇんだよ、女と男の問題だ!」

「小学生と高校生の問題だよ!」

「行くぞっ」


強引にスタスタと歩き出した。

ここは俺がちゃんと交通ルールを守ってあさひを高校まで送り届けないとな。高校より小学校のが先にあるのが難点だけど…せめてそこまでは送る届けるのがおれの使命だ。


「碧斗!!!」


後ろから聞こえるあさひの大きな声にふぅっと息を吐いた。

全く世話が焼けるんだから。


「そんな危ないって言うならしょーがねぇなぁ」


足を止め、振り返えった。

はいっと、左手を差し出して。
手を繋いでやるよ、と。


「ほら」

「そうじゃないってば!」

「危ないんだろ」

「…もう!わかったよ!」


おれの手を取るあさひ、その手をぎゅっと握り返した。


「あさひが繋いでるんじゃねーからな!おれが繋いでやってんだからな!」

「はいはい、それでいいよ」


制服のスカートを揺らしながら歩くあさひと漆黒のランドセルを背負ったおれ、毎朝こんな感じで学校へ向かう。

夏が始まろうとしている今日この頃、天気がよくて気分もいい。


「昨日ね、テレビ見てたらホットケーキ食べたくなっちゃって夜コンビニ行ったの」

「うん」

「でも完成品なくて妥協してホットケーキミックスにしたから…」

「それ焼かないと食べられなくね?」

「そうなの」


たまにあさひはふわふわしたようなことを言い出してくる。

それだったらわざわざ買っても買わなくても同じだったんじゃ?だって今日改めて完成したやつ買いに行くとか、食べに行くとかすればいいわけで。


「だから碧斗、今日一緒にホットケーキ作ろ!」


………!

これがあさひなんだ。本当ほっとけないんだから。


「いいよ!おれがでっかいホットケーキ焼いてやろう!!」