「……っ、久斗さん! イジワル言わないでください」
「君を見ているとなんだか虐めたくなるんだ。悪いな」
久斗さんは喉の奥で笑いながらあっけらかんと言い放って、そのままいなくなってしまった。
「私は久斗さんのこと全然分からないのに……」
静まり返った玄関に、私のため息が響く。
彼はこの数日で、私のすべてを攻略してしまったのかも。
そう思えてしまうほど、久斗さんは私の気持ちを糸も簡単に読み取ってしまうのだ。
距離が縮まっていること自体は嬉しいけれど、少しだけ悔しく思う。
リビングに戻り、再びため息をこぼしてしまった。
久斗さんがいなくなってしまった部屋はとてつもなく広く感じる。
いや、実際にとてつもなく広いのだけれど。
「昨日掃除をしたばかりで、そこまで汚れてないし。映画でも観ようかしら……」
札幌にいるときは、短大を卒業してから朝宮ホテルの事務作業を手伝っていたのでなんだかんだで忙しかった。
けれどここでは、完全に専業主婦。久斗さんが家に居る時間も少なく、あまりにもひとりでいる時間が長い。
久斗さんは私が料理好きなことを考慮し、クッキング教室に通ったらどうか提案してくれたけれど……。



