久斗さんの落ち着いた言葉が耳に届き、頭が真っ白になる。
思考が停止したまま、顔を上げた。
「え?」
「昨日から考えていたが、俺は君のことを八神渉から守りたいと思ったんだ」
「うそ……」
にわかに信じがたいけれど、久斗さんの真剣な表情から本気で言ってくれているというのが伝わってくる。
じわじわと頬が熱くなってごくりと息を呑むと、彼は薄い唇をうっすらと開き、テーブルの上で両手を握った。
「だが、俺たちは知り合ったばかりだ。お互いのことを何も知らない。それに君は今まで恋をしたことがないと言った。俺が好きだということは、恋愛感情ではなく、ある種の憧れに近いかもしれない。俺自身も、君に惹かれているとは思うが、恋愛感情なのかは分からない」
淡々と事実を告げる久斗さんに思わず口をつぐむ。
この気持ちは恋ではなく『憧れ』――?
さらに久斗さんは続ける。
「八神との結婚が迫っていることもよく分かっている。だから極力早く婚姻を結び、一年更新で夫婦になるのはどうだろう。その間にお互いが〝違う〟と思えば離婚をする。結婚生活を続けている間は一般的な夫婦として親密度を高める努力をする。俺は夫として君の生活の保障、並びにご家族のサポートは全面的にしていくから安心してほしい。如何だろうか」
「一年更新……」
自分が思い描いていた結婚とは大きくかけ離れた温度のない内容に、激しく動揺してしまう。
けれど、久斗さんが言っていることは至極正しい。
本来結婚は一生に関わる大切な事柄で、一時の感情で決めるものではない。だが、渉さんから私を守るために急いで婚姻を結んでくれると提案してくれているのだ。後から違うと思ったら『離婚』するということ。
それ以上を求めるなんておこがましいにもほどがある。
例え仮だとしても、久斗さんが私の夫になり傍にいてくれているのは事実だ。
「わ、分かりました。その内容で、お願いしたいです」



