エリートパイロットは没落令嬢を惜しみない愛で包む

えっ……?

驚くほどタイミングよく、背後から男性の声がはっきりと聞こえてくる。
僅かに顔を傾けると、その声の主は優しくこちらに微笑みかけた。

「やっぱり。こんなところで奇遇ですね」

「黒瀬……さん」

渉さんは動揺した様子でそう呟くと、私から距離をとる。
名前を知っているということは、彼らは顔見知りのようだ。

ずっと、まっすぐな眼差しが私を捉えている。
さらさらの艶のある黒髪の前髪から、切れ長の瞳が覗いているのだ。

この方、モデルさん……かしら。

そう思うほど、スーツがとってもよく似合っている。
多分百八十センチは優に超えていて、足が上半身よりも長い。
加えて顔もすごく綺麗だ。
まっすぐ伸びた高い鼻。それに形の良い薄い唇。優しさが滲む美しい瞳。

「彼女は、八神さんのお付き合いされている女性ですか?」

彼の言葉に、現実に引き戻された。
でも、鼓動は速いままだ。

「ああ、そうですよ。来月には婚姻届けを出す予定のね。ね、つむぎ」
「は、はい」

渉さんの言葉をよく聞き取れないまま、咄嗟に返事をする。
すると男性は口角を少し上げ、大きな手を私に向かって差し出した。

「初めまして、JAR航空代表取締役の黒瀬と申します。いつも八神さんにはお世話になっております」