エリートパイロットは没落令嬢を惜しみない愛で包む

通路を挟んで隣に座っていたカップルは、抱き合って思いを伝えあっている。
ふたりの情熱的な姿を見て、ジンと胸が熱くなった。

ああ……私も、好きな人に好きって伝えてみたかったわ。
恋オンのように、誰かに激しく想われたかった。
本当は好きでもない人と結婚なんてしたくなかった。
本当は、渉さんじゃなくて久斗さんがいい。
私は、久斗さんに惹かれているから。

自分の気持ちをはっきりと自覚した直後に、三度目の浮遊感が襲ってきた。
目の前の景色が真っ白になり、意識が遠のいていく。
私、私――もう終わりなの?

『――……つむぎには好きな人と結婚してほしいわ』
『お母様?』

眩い光の中、少しずつ見えてきたのは母の笑顔だった。
私は母とダイニングテーブルでケーキを食べている。
まだ母が病に倒れる前、中等部一年のときのワンシーンだ。
母は優しい目で私を眺めている。

『私はパパと結婚して本当によかったと思っているの。まぁ、親族の反対を押し切って結婚したときはそれはそれは大変だったけれどね……結果的に、好きな人と結婚して全部の幸せが手に入った』

仲睦まじい家庭、可愛い娘、そしてやりがいのある仕事まで手に入れた。
そう続けた母は誇らしげだった。
母はもともと中部地方にある大手証券会社の令嬢で、幼い時から許嫁も決まっていたようだったけれど、父と恋愛関係になり勘当同然で北海道に嫁いだのだ。

『でもまだ気が早いわ。好きな人もできたことがないのに』
『そうねぇ。でも……きっと近いうちによ。つむぎの旦那様になる人がどんな男性か、本当に楽しみだわ』