エリートパイロットは没落令嬢を惜しみない愛で包む

「そうですね、お父様」
父と他愛のない話で盛り上がっていたら、搭乗時刻が近づいていた。
ベンチから立ち上がり、辺りを見渡す。

いくらJRA航空の偉い人だからって、空港にいるとは限らないっていうのに。私のばか。それに、朝もこんなに早いんだから。

悲しい気持ちになりながらも、私は父とともにその場を後にする。
偶然にも、今日乗る飛行機はJAR航空の新千歳空港行きの便だ。
久斗さんが運営する会社だというだけで、やっぱり気持ちが浮き立つ。

搭乗口に到着し、チケットを確認してもらった後ボーリングブリッジを歩いて飛行機へと乗り込んだ。
「おはようございます。よい旅を」
CAの眩しい笑顔を見て、辛気臭い自分にハッとする。

いつまでもうじうじしちゃだめ。恋オンでも読んで、気分を変えましょう……っ!
恋オン――私の大好きな少女漫画、“恋するスパイスをオン!”、のことだ。
恋に不器用なアラサー女子がひょんなことがきっかけに、鬼上司から溺愛されるというもの。現在七巻まで発売されていて、六巻の最後では一度距離をとったふたりが、再び心を通わせるというシーンで終わっていた。
私はいつもは電子書籍派なのだけれど、本当に大好きなお話なので単行本は欠かさず手に入れている。
数日前書店でフラゲしたけれど、渉さんとの顔合わせで精神的な余裕がなく、鞄にいれっぱなしだった。

機体前方の指定座席に父と移動した私は、荷物を置いて一息つく。
羽田空港から新千歳までは約一時間半だ。
軽食を食べながら、恋オンを読んでいたらちょうどいい時間に到着できるだろう。
しばらくして乗客が全員乗り込み、シートベルトを装着する音が聞こえ始める。
飛行機がいよいよ動き出し、離陸体制に入った。
そのとき――。

『――……107便、羽田空港発、新千歳空港行きご搭乗の皆様、いつもJAR航空をご利用いただきましてありがとうございます。機長の黒瀬です』