エリートパイロットは没落令嬢を惜しみない愛で包む

「お父様?」
「ずっと浮かない顔をしているじゃないか。何か嫌なことでもされたか」
「そんな……何もないですよ。ただ、少しゆっくりしたかったなと」

とっさに言い訳を並べると、父はふぅと大きなため息をつく。

「それはそうだ。おとといの夜札幌に飛んできて、これじゃあとんぼ返りだからな。次はもう少しゆっくり……いや、次は私はいらないのか、ふたりで過ごすんだろう」

「ええ」

自分で言ったのに、少しだけ傷つく。結婚は決まっていて、すでに目前まで来ている。
すると父は私の言葉に安堵したようで、明るい笑顔を浮かべた。

「そうだな、渉さんと東京の色んなところに出かけておくれ! 私が上京したらおすすめの場所を案内してくれつむぎ」
「……もちろん」

父は大きく二度、三度頷くと手に持ったお菓子の袋を破り、雷おこしを口の中に放り入れた。

――お父様は、渉さんのことをよく思っていらっしゃる。何より、八神会長とも馬があった様だし、心配をかけるようなことは言わないように気をつけていかないと。

渉さんと顔わせをしている間、別行動をとっていた父は、渉さんの父である八神net1の会長と浅草で会食兼、今後の展望について語り合ったらしい。そこで随分と盛り上がったようだ。

それに渉さんは父の前だと、少しだけ雰囲気が変わる。
親しみやすく気さくな青年だという認識で安心しきっている父に、私から不安を吐露することは躊躇われた。

「そろそろ行くかつむぎ」