『ちょうど帰っているところだが、何か用か?』
俺の問いに、小春がかすかに笑った。
『ううん、偶然仕事で通りかかったの。このまま直帰予定だし、美味しいケーキでも一緒にどうかしらと思って』
『……そうか。じゃあ折角だから、少し上がっていくか?』
『うん! 久しぶりにお兄ちゃんに会えて嬉しい。また到着したら連絡入れるわね』
明るく弾んだ声を最後に、電話が切れる。
疲れているが、可愛い妹が会いたいと言っているので、ここは快く受け入れようと言い聞かせる。
小春はこの春、新入社員で大手広告会社の営業部に所属されたばかりだ。
近況も聞きたいし、悩みや不安があれば言って欲しい。
半分しか血が繋がっていないとはいえ、俺たちは兄妹なのだから。
「お客さん、到着しましたよ」
「ありがとうございます」
タクシーの運転手に運賃を払い、車から出る。
目の前には、見慣れた地上四十七階建ての高層ビルが色もなく聳え立っていた。
今頃、つむぎは笑っているだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えているのが不思議だ。
ポケットにしまったスマホをもう一度手に取る。着信はない。
きっと今後も、人の妻となる彼女から連絡がくることはないだろう。
だがもし。
万が一、連絡がくることがあったら俺はきっと彼女を放さない気がするのだ。
――こんなに何もなかったか、この家は。
心にぽっかりと穴が開いていることに気が付いたのは、殺風景な自室のリビングを見てだ。
普段と変わらないこの景色が輝いて見える日がすぐそこまできているなんて、このとき俺は夢にも思っていなかった。
俺の問いに、小春がかすかに笑った。
『ううん、偶然仕事で通りかかったの。このまま直帰予定だし、美味しいケーキでも一緒にどうかしらと思って』
『……そうか。じゃあ折角だから、少し上がっていくか?』
『うん! 久しぶりにお兄ちゃんに会えて嬉しい。また到着したら連絡入れるわね』
明るく弾んだ声を最後に、電話が切れる。
疲れているが、可愛い妹が会いたいと言っているので、ここは快く受け入れようと言い聞かせる。
小春はこの春、新入社員で大手広告会社の営業部に所属されたばかりだ。
近況も聞きたいし、悩みや不安があれば言って欲しい。
半分しか血が繋がっていないとはいえ、俺たちは兄妹なのだから。
「お客さん、到着しましたよ」
「ありがとうございます」
タクシーの運転手に運賃を払い、車から出る。
目の前には、見慣れた地上四十七階建ての高層ビルが色もなく聳え立っていた。
今頃、つむぎは笑っているだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えているのが不思議だ。
ポケットにしまったスマホをもう一度手に取る。着信はない。
きっと今後も、人の妻となる彼女から連絡がくることはないだろう。
だがもし。
万が一、連絡がくることがあったら俺はきっと彼女を放さない気がするのだ。
――こんなに何もなかったか、この家は。
心にぽっかりと穴が開いていることに気が付いたのは、殺風景な自室のリビングを見てだ。
普段と変わらないこの景色が輝いて見える日がすぐそこまできているなんて、このとき俺は夢にも思っていなかった。



