残花が舞う中、つむぎ――八神渉の婚約者は、不安げな表情でこちらを見ていた。
会合の後庭園で美味しい空気を吸っていたところ、無理矢理八神に迫られていた彼女を見つけた。
怯え切った幼な顔を見て、足が勝手に動いていた。
近くで見た彼女は本当に純朴そうで。
透き通るような大きな瞳に、目を奪われた。
業界内でも素行が悪いと評判の八神と、なぜ彼女が婚約を結ぶことになったか……直接は聞いていない。
だが朝宮ホテルの経営が危ない噂は知っていたし、八神が金で彼女を娶ろうとしているとしか考えられなかった。
八神は脱税疑惑が囁かれている上に、女性関係がとにかく派手だ。
また彼を取り巻く大人たちも、問題がある経営者ばかり。
何度か友人を通し八神と顔を合わせたことがあったが、互いが互いをよく思っていないのでまともに話したことがない。
出来れば、八神とは極力関わりたくないというのが本音だ。
しかし――健気なつむぎの姿を見て、見過ごすことができなかった。
八神との婚約破棄をそれとなく提案すると、彼女は自分を犠牲にしてでも、家族や従業員を助けたいとはっきりと伝えてくれた。まだ彼女はとても若いが、逞しい姿に心を打たれた。
『おいひいです。黒瀬さんっ!』
なのにスイーツを食べているときだけ、そこらへんにいる二十代と変わらない、無邪気な笑顔を見せてくれる。
色んな顔を持ったつむぎに目が離せなくなったのと同時に、もっと彼女の支えになりたいと思う自分がいた。
『俺と代わりに結婚するか? つむぎ』



