エリートパイロットは没落令嬢を惜しみない愛で包む

父親はJAR航空代表取締役会長、黒瀬哲也。
多様化が謳われるこのご時世に珍しい親族内承継ということで、もともと内部からの反発は非常に大きかった。
しかし、縄張り意識が強い父は諦めきれず彼らを黙らせる他方法はないと考え、俺に無理難題のミッションを課した。
それは誰よりも優れたパイロットとして実績を積み、同時に人材育成で結果を残すこと――。

父の言いつけを忠実に守り、航空学校を首席で卒業後、海外でフライト実績を積み俺は歴代一の速さで機長に昇格した。
機長になってからは人材育成のトップとして三年間、千人余りいるパイロットの指導に当たった。
もともとパイロットにも経営にも興味があったので、困難は多々あったが乗り越えられたのだ。

そして一カ月前、名ばかりの取締役社長に就任。
今年いっぱいでパイロットから完全に退き、経営に力を入れていく予定だ。

『いやぁ、会長。久斗君の指導は本当に素晴らしいんですよ』

今日の会合で父に媚びを売る専務の言葉を思い出し、苦笑する。
まだコーパイだった頃、上層部から散々嫌味や皮肉を言われてきた。
自分に自信があり痛くも痒くもなかったが、こうやって手のひらを返されるとやはりいい気はしない。

「はぁ……」

急に疲労が襲ってきて、瞼を閉じる。
山積みになった業務をひとつずつ的確にこなし、目まぐるしく過ぎていく日々。
これらにやりがいを感じているし、不満はない。
特に野望はないが、持ちうる力を出し切り自力でのし上がってきた分、航空会社のトップとして自分が引っ張っていきたいという気持ちは強い。

『――……私は朝宮と申します』