久斗さんは悔しそうな表情をして私を見つめていたが、ふいに腕を掴んで顔を覗き込んできた。
「いったいどんな暴言を吐かれたんだ? 手は……手は出されなかったか?」
「それは……」
詳細はあまり言いたくない。
これ以上、小春さんを大切に想っている久斗さんを悲しませたくない。
しばし考え、言わない選択を選ぶと、久斗さんは目を細め小さく息を吐いた。
「つむぎを傷つけて本当に悪かった。兄の俺からも謝らせてくれ」
久斗さんは苦し気な声で私に告げる。
首を横に振ると、彼は深刻な表情のまま小春さんとの関係性について詳しく私に話してくれた。
「――そんなことが……」
いくら酷いことをされたとはいえ、小春さんの生い立ちに同情してしまう。
そして久斗さんに激しく執着してしまう気持ちも分からなくない。
「俺があいつを甘やかしすぎた。つむぎを傷つけたことはいくら妹とはいえ、絶対に許せない。つむぎが安心できるような環境をつくる」
厳しい口調でそう言い切った久斗さんに胸が熱くなるけれど、なるべく穏便に、平和にこの一件が収まってくれることを心の中で祈る。
すると久斗さんは私の目をまっすぐ見てきた。
「それで、さっきのバイト先の男性はどうしたんだ?」
「はい。小春さんのことがあって、矢代さんが私の身を心配してここまで送り届けてくれたんです。彼は私が落ち込んでいるからと、好きな人の誕生日プレゼント選んでほしいと誘ってくれたんです」
とりあえず誤解を解かねばと先ほどの状況の詳細を伝えると、久斗さんは「さっき彼には申し訳ないことをした」とこぼし口をつぐむ。
一方私は、もっとも気になっていたことを尋ねるために口を開いた。
「久斗さんは、本当にパイロットを辞めてしまうんですか……?」



