エリートパイロットは没落令嬢を惜しみない愛で包む


受け取った名刺には、【株式会社JAR(ジャパンエアーロード)代表取締役、黒瀬久斗】と記されていた。
国内最大手の航空会社の、トップの人。
歳は私よりも十歳ほど上だろうか。外見はどこから見ても二十代後半から三十代前半だ。

「ひさと、さん?」
「ああ、そう読む。好きなように呼んでくれ」

顔を上げると、久斗さんは目を細め私の頭を優しく撫でた。
視線が絡み合い、どきんと鼓動が跳ねた。
力が抜けるような甘い眼差しに思わず息を呑む。

「つむぎの笑顔に癒されたよ。素敵な時間をありがとう」
「……私もです、久斗さん」

彼を少しでも癒せたなら本望だ。
私も素直に思っていることを口にすると、彼は僅かに目を見開き手を離した。
ついにお別れの時間がやってくる。

「では、俺はこれで。残りの時間を楽しんで」
「はい。久斗さんも、お仕事頑張ってくださいね」
「ありがとう」

久斗さんは笑顔を残し、私に背を向けて歩き出す。
どんどん彼の香りが遠ざかっていき胸が締めつけられた。

ありがとう、久斗さん。
結婚する前にあなたみたいな素敵な男性と過ごせてよかった。
どんな形でもいいから、またお会いしたいです。

一生伝えることはない言葉を、心の中で噛みしめながら呟く。
彼への想いにどういった名前がつくのか、私はあえて考えないようにした――。