経営が困難になってからも父を励ますためにスイーツを作ったりしていた。
けれど時間が経つにつれ、そんなことも許されないくらい暗い空気になってしまっていた。
八神様との縁談が決まってからは、気持ちの余裕はまったくなくなってしまった。
……そんなことよりも、さっき黒瀬さんに呼び捨てにされたような気がしたけれど、気のせいだったかな。
「今は忙しいですけど、結婚したらまた作りたいと思います。こうやって写真に収めておくと、アイデアも湧いてきたりして」
「そうか」
緊張で口早に伝えると、黒瀬さんは目元を緩めて優しく笑いかけてくれた。
温かい眼差しに、胸がキュンと音を立てる。
見守ってくれているような、包み込むような空気に今にも飲まれそうだ。
「スイーツの話をしているつむぎは、とても楽しそうだな。君が言うように、状況が落ち着いたら作り続けたほうがいい。一番自分らしい時間を、忘れることがないように」
「これが自分らしい時間……なのかな?」
「ああ、そうだよ。ほら、見るだけではなく口にしないと」
黒瀬さんは私に微笑みかけると、食べるように促す。
彼に従ってようやくフォークでショートケーキのクリームをすくう。
舌の上で砂糖が溶けて、自然と笑みが零れた。
「おいひいです」



