エリートパイロットは没落令嬢を惜しみない愛で包む


この由緒正しい庭園は、琴の音色が流れていてとても優雅だ。
視線の先にそよぐ桜の木に青葉が混じっていて、時間の流れに驚かされる。先週まであんなに咲き誇っていたのに。
石畳を踏みしめて残花を眺めていると、隣にいた渉さんがふと足を止めた。

「つむぎ、聞いているか? 僕の話」

低い声にはっとして振り返ると、渉さんは眉間に皺をよせ、不機嫌に目を細めて私を見ていた。
高級そうなスーツの肩に桜の花びらが乗っているのに気づいてしまったけれど、とりあえずはその場を取り繕うことにする。

「えっ、あぁはい……昨年特許をとった商品が販売初日でとても大盛況と」
「違うよ、その話はとっくの昔に終っている。先月ドバイに行った社員旅行の話をしていたんだけど」
「そ、そうでしたか。申し訳ありません」
「二十一歳で耳が遠いなんてこの先大丈夫かよ」

彼はあからさまに鼻で笑い、私を追い越していく。

「まぁ天然ボケとその美しい見た目のギャップがいいのかな」

渉さんの刺々しい言葉に、胸がチクリと痛む。
今のは冗談だと思って聞き流そう。実際に、私は上の空だったのだから。
溜息をつきかけそうなところをグッと耐えて、無理やり口角を上げる。

「そういう渉さんはお仕事も頑張っていて、すらっとしててモデルさんみたいですね」
「そうかなぁ、まぁ、こんなに若くして成功している男は世界でも一パーセントくらいだろうからね」

誇らしげな渉さんの横を歩きながら、胸に感じる違和感に気付かないふりをする。
パーティで二度顔を合わせ、今日で三度しか会ったことがなく、彼のことはよく知らない。
一緒に生活をしていたらもっと素敵なところに目がいくようになるのかも。