高等部の2年生に転入してきた俺に、校内案内役がついた。
クロエ・グランマルニエ・ラ・モンテール侯爵令嬢だ。

文字通り教室の配置、校内設備の案内と、校則の理解確認や選択授業の登録方法など、この学院で必要な知識を詳しく教えてくれる便利な存在だ。



母が俺を生んだ直後に亡くなってから、この国とは違う国で育てられた。
当時の国王陛下だった実父の正妃の目から逃れるように、だ。
その時に協力をしてくれたのが、先代当代のモンテール侯爵父子だった。


その嫉妬深い王太后が亡くなったので、17年ぶりに祖国へ戻り、貴族学院に転入したのだ。
国外脱出時の御礼と、これからの挨拶を兼ねて侯爵邸に父のシモンと訪問した際に、長女のクロエ様と養子の嫡男ジュール様にお目通りをした。


モンテール侯爵とご令息には、美しい意匠で有名な懐中時計を。
ご令嬢にはメゾンでの最新デザインのドレスの仕立て券を。
それらを手土産に、これからもご贔屓にと、挨拶をした。



俺の本当の父親が誰なのかは関係者以外は秘密にされていて、本来は伯父であるブリュロワール商会のシモン会長の息子と言うことになっていた。
伯父夫婦には子供が生まれなかったので、俺は実子として届けられて商会の跡取りとされている。