私の腕を掴んで離さなかったのは、第2王子の
アンリだった。
彼と私の父親は、王太子と男爵令嬢が私を悪役令嬢として罪に落とそうとしたことが許せず、反対に彼等の悪行を並み居る貴族達の前で暴いて見せた。

その結果、ルイは廃嫡の上、離宮に幽閉された後、毒杯を与えられた。
婚約者のいる元王太子を誘惑した男好きな売女には相応しい仕事を、と娼婦にされたらしいコレットの行方はわからない。
彼女の実家、モーリス男爵家は取り潰された。


第2王子のアンリは王太子に繰り上がり、兄の婚約者だった私に求婚した。
王家としてはここまで王妃教育を進めてきた私を逃したくなかったし、何よりアンリ当人が婚約者を決めずにいたこと。
それこそが私に一途に愛を捧げていたからだと、人々は喝采した。


悪役令嬢にされかけた乙女は助けられた。
それが王妃ユージェニー。
人知れず愛していた彼女を助けて、悪を滅ぼした第2王子は国王になった。

なんて素晴らしい物語、と人々は夢中になり、小説に芝居に唄に、それを残そうとした。

そして王妃になった元悪役令嬢の胸には、もうひとつの物語が完結されずにずっと残されたまま。



断罪されたあの夜、彼はいつまで待ってくれていたのだろうか。
ホールを駆け抜けて、私を待つ彼の腕の中に飛び込む筈だった。
アンリに腕を取られなければ。